ホリスティック医学とは?
ホリスティック医学とは、ひとことでいえば、「生命まるごとの医学」といえるかもしれません。すなわち、体だけでなく、心、精神、環境といったものまで、ひっくるめて、人間と生命をとらえて医学を考え、それを医療の基本姿勢としていく根本原則のように考えていただくと、わかりやすいと思います。 だから、本来全体として関連性のなかでダイナミックに生きている人間存在やその生命を、そのままとらえようという視座を持ち、単にからだを部分にバラバラにして修理するという機械論的な発想をのりこえて、医学と医療をとらえようとする医の哲学といったほうが、より正確かもしれません。 別な言葉で、「全人的医療」「全人医療」とかいう表現もあります。 すなわち、胃が悪ければ、それを修理して直すといった機械論的な医学のアプローチをするより、その胃の悪くなった根本原因、すなわち、生活習慣、環境、心理状態まで含めて、いいかえれば、患者の生命まるごとに関わる情報を観察・洞察して、ケアしていこうとする考え方です。それゆえに、患者が本来持つ自然治癒能力が、うまくそのバランス回復能力を発揮できるようガイドしていくことが基本となっています。 「ホリスティック」(Holistic)という言葉は、語源をギリシャ語の「ホロス」(Holos)に持ち、「(生命の)全体性」という意味の言葉から生まれたものです。 J. C. スマッツという哲学者が、科学がどんどん細分化し、ありのままの全体として存在するものを細かい要素に分解して調べ、分析して、生命のあり方を探ろうとしてきた「要素還元主義」(Reductionism)に対して、生きている全体をバラバラにして、その一つ一つを調べて、また、寄せ集めても生きた全体には決してならないことを説き、「ホーリズム」(Holism)を唱えたことが、「ホリスティック」(Holistic)という言葉の生まれる元になっています。 1970年代中ごろから、いままでの機械論的な医療へのアンチテーゼとして、とくに米国で、ホリスティック・メディスン(Holistic Medicine)とか、ホリスティック・ヘルス(Holistic Health)という動きが出てきて、1980年代から1990年くらいに、とくに活発になりました。 でも、良く考察いたしますに、西洋医学の歴史をひも解いてみると、実は、西洋医学の父といわれる古代ギリシャのヒポクラテスの医学と医療の考え方は、今日の、病気を叩く対症療法中心で病気志向の現代西洋医学の考え方と大きく異なり、もともと全人的医学・医療としての、ホリスティックな医学・医療であり、むしろ、その考え方は、アジアの伝統医学や東洋医学に相通ずるものをたくさんもっているものでした。 この150年の急速な医学技術の進歩により、医療が得たものと、失ってしまったものを、あらためて根本から洞察し、「医の心」と医療のもともとの原点にたちかえり、これからの未来の心ある全人医療を目指す考え方が「ホリスティック医学」といえるのかもしれません。
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