記事に書いたダニエル・コビアルカのコンサートには、ご本人と主催者のご好意によって、私の関係者や友人をご招待いただきましたが、その中には、脳溢血で倒れた体験を持つ歯科医の方や、脳梗塞で倒れたあとリハビリをされている会社役員の方、そして、高校時代のクラスメイトで、以前、白血病を発症し、闘病の末に、それを克服した友人の姿がありました。皆さん、久しぶりに会う方ばかりでした。
人は病という体験をすると、とても丁寧になるのでしょうか。
とくに大病を克服した方々からは、とくに心あたたまる丁重な感謝やお礼の言葉をいただきました。
今から、もう10年ほど前になるでしょうか、昔の高校時代のクラスメイトだった友人から連絡があり、深刻な相談がありました。詳しい事情を聞くと、なんと急性骨髄性白血病の診断を受け、大学病院で骨髄移植をすすめられ、ドナーを待っている状態、とのことでした。
そこで、私が心から信頼し、敬服する、ある医科大学の教授が、ご自身で白血病のような症状が出た折に、中医学をためして、見事に完治させた体験をもたれている方がいたので、すぐに連絡し、彼を診察してもらい、まずは東洋医学的な方法を試してもらうことにしました。
しかしながら、それにもかかわらず、残念ながら、病状は変わらず、友人は、結局、ドナーを忍耐強く待って、骨髄移植を受けることになりました。
その後、幸いなことに、骨髄移植が成功し、元気になり、めでたく結婚をされたとは風の便りでは聞いていました。ですが、相談を受けたときも含めて、ずっと長年会っていないままでした。
せっかくだから彼の奥さんもいっしょにご招待し、ダニエルの音楽で、ゆったりとリラックスして楽しんでもらおうと考えたのですが、その招待をとてもよろこんでくれている様子でした。
当日、私が声をかけた方々に、あいさつまわりを、コンサートの休憩時間にしておりましたので、あわただしかったのですが、高校時代の仲間のいる席のところに行きました。高校時代の仲間といっても、みな、大企業や中堅企業で役員や管理職をやっていたり、大学教授になった者もいましたから、なかなか皆たいしたものでした。
その白血病を克服した友人も、大手商社マンとして海外で活躍してきた人物です。いろいろ体に無理なこともあったのではないかと思います。
ほんとうに久しぶりに高校時代の友人たちに再会し、皆もコンサートを楽しんでくれているようで、うれしかったのですが、彼の姿が見えませんでした。
すると、どうもトイレに行っていたらしく、しばらくすると、彼があらわれました。
彼は、私を見つけると「きょうは本当にありがとう!」といって、手を両手で握ぎりしめてきました。
そのとき、久しぶりに会う彼の様子や表情を見て、彼がのりこえた闘病の大変さを、即座に私は理解しました。
ほんとうに全身でよろこんでくれているその様子を見ながら、「たいへんだったろうなあ。よく生きていてくれたなあ。」としみじみ、彼の無事がうれしく、心の中で、もらい泣きしそうになりました。
病気の実際の内容とそのたいへんな治療のことがわかる人間には、彼が相当つらいものをのりこえた、その大変さが、一瞬にして、痛いほどわかったのです。
手を握り締めて、放そうとしない彼のよろこびかたを見ていて、彼ら夫妻をコンサートによんで、ほんとうによかった、と、うれしかったものでした。
その後、彼からは、わざわざ、丁重に、菓子折りが届きました。ここまで、丁寧にしてくれなくてもいいのに、と、正直なところ思いましたが、とにかく、病を克服して、生きていてくれ、よろこんでくれたことが、何よりうれしかったです。
たしかに、死を覚悟するほどの大病を克服したような人は、人の親切や好意に対して、非常に敏感に素直に反応してくれるような気がしました。
友人が、生きていてくれて、本当によかった、と、しみじみ思うと、じーんと涙がこみあげてきました。
大病を克服した友人たちをコンサートに招待する機会をいただき、深いよろこびを体験させていただいた友人のダニエル・コビアルカと主催者のK・D社長には、心から感謝・御礼を申し上げます。ありがとうございました。
おかげさまで、コンサートに来た皆さんの心の中には、うれしい花が咲いてくれたようでした。